2008年4月より下村健一の「眼のツケドコロ」の放送時間が6:10~に変更になりました。

雪印を告発した倉庫会社社長の、ドキュメンタリー映画始まる

放送日:2007/10月/27

最近、赤福や比内鶏など、また食品の偽装問題が相次いで発覚している。そこで今朝は、こうした問題が大々的に報道される一つの口火となった、6年前の牛肉表示偽装詐欺事件の後日談に眼をツケる。
『雪印食品』がオーストラリア産の牛肉を国産牛肉と偽ったことが発覚したのは、箱を詰め替えるという偽装工作の現場になった、冷蔵倉庫会社『西宮冷蔵』の水谷洋一社長が内部告発したからだった。この結果、大ブランド『雪印食品』はあっけなく解散に追い込まれた。しかし、告発した側の『西宮冷蔵』自身も、(水谷社長が告発を決心するまで悩みぬいた3ヶ月弱の間、偽装工作を知りながら黙っていたということで)国から「在庫証明書の改ざん」に問われ、営業停止処分を受けてしまう。それをきっかけに、取引先が次々と撤退し、結局、会社は閉鎖を余儀なくされた。
その後、水谷社長と息子の甲太郎さんは、「負けへんで!西宮冷蔵」というノボリを立てて道端に座り込み、告発の経緯を書いた本を売りながら、カンパを募って食い繋ぐという厳しい生活を送った。

その路上生活を経て、告発から2年3ヶ月後、水谷さん親子がついに会社の再出発を果たした頃のことは、当時このコーナーでもお伝えしたが、その一部始終に密着したドキュメンタリー映画『ハダカの城』が、ちょうど今日から!東京で公開される。監督の柴田誠さんに、お話を伺う。

■映画撮影も会社再建も、陸橋の出会いから

――水谷社長には、どれくらいの期間、密着していたんですか?

柴田: 水谷社長と出会って撮影が始まったのは、2003年10月からでして、もうちょうど丸4年になります。全く偶然、大阪駅の前にある曽根崎陸橋で(社長が座り込んで本を売っていたのを)お見かけしたのが始まりです。私の職場が梅田にありまして、あの陸橋っていうのは、通勤の行き帰りで歩いていたんです。4年前の今頃、あのノボリが見えまして、私もそこで本を買わせていただいたことがきっかけです。それ以来、映画本編自身は、約1年8ヶ月ぐらいの間、社長の路上での活動をずっと見て来ました。

映画の1シーンをご紹介しよう。陸橋の道端で本を売り続けることについて、水谷社長が柴田監督に向かって語る場面。電気も止められて真っ暗な自宅で、懐中電灯の光だけというスクリーンだ。

――映画『ハダカの城』より――――――――――――――――――――――――――――――
水谷: 確かに陸橋の上は、寒い。これは、全員寒いわけで。街行く人も寒かろうし、私も寒いし。そういう中でも、お声掛けをしていただく方々との出会いがある。もう最高の喜びやね、うん。“地獄に仏とは、この事なり”っていう形で、「また同志と出会った」って。あんまり寒くなり過ぎると、自分が何をしゃべってるのか分からない状態になって、しどろもどろになってるけど。でも、良い修行を、あの陸橋でさせてもらってるなぁ。
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――「良い修行」というのは、水谷社長はどういう意味で言ってるんですか?

柴田: これは、複雑な言葉だと思います。陸橋(での出会い)の方が大きいんだと思うんですけど、あれ以後、社長はいろんな方と出会われてます。その事が、社長の人生観を非常に変えたんだと思いますね。

■戸惑う通行人、群がる報道陣

この映画の中でも、水谷社長が通行人から声を掛けてもらえるシーンは、印象的だ。テレビだったら、声が掛かった瞬間だけを効率よく編集して見せるのだろうが、柴田監督は、通りかかった人がチラッと社長を見て立ち止まり、「どうしようかなぁ」とさんざん躊躇って、ついに声を掛ける(あるいは、その勇気を出せずに後ろ髪を引かれる感じで立ち去る)までを、道の反対側から辛抱強く撮影している。

――ああいう《一般の人達の反応の仕方》を映画に刻み込むことには、結構こだわったのでは?

柴田: 取材当時は、(会社の)再建も復活も、実際どのように成し遂げられていくかっていうのは、全然想像もしなかったんです。でも、陸橋の取材をしてる中で、人との出会いが何か動かすんだろうなっていうのは感じてましたので、そこでの1つ1つをとりあえず捉えていければなと思いました。

その後、再建への節目節目で大手マスコミの報道陣がワッとやって来て、水谷社長を取り囲む場面が、この映画には何回か出てくる。そういうシーンでは、柴田監督のカメラは一歩引いて、主人公を撮るというよりは、主人公に群がるマスコミの姿を明らかに狙って撮っている。

柴田: メディア、マスコミが水谷社長をどう捉えるのかっていうのを、僕が見たくてということもあって、一歩引いた形で見ています。

平時には眼を凝らし、有事にはフッと引く。普段ずっと被写体に密着しているドキュメンタリー映画ならではの味というのは、こういう所にも滲み出る。

■《転身せず再建》にこだわった理由

水谷社長は、「あの偽装告発者の…」という呪縛から離れるべく、他の仕事に転身しても、恐らくやって行ける才覚のある人だ。なのに、『西宮冷蔵』を元通り再建することに、どうしてここまでこだわり続けたのか? 社長自身が、映画の一場面で次のように語っている。

――映画『ハダカの城』より――――――――――――――――――――――――――――――
水谷: このまま『西宮冷蔵』が朽ち果てていったら、目の前で社会悪、犯罪行為が行なわれておったとしても、「『西宮冷蔵』の二の舞になるのはまっぴらやから、見て見ぬ振りしとこうや。世に言うところの、見ざる・聞かざる・言わざるに徹しよう」。そんな世の中になる。そんな事にはしたくないから。正義を貫くためにも、絶対復活させようって。
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――今の言葉を聞いて、また、ずっと水谷社長と付き合ってきて、彼の原動力はどういう所にあったと思いますか?

柴田: 社長は、大きな筋を通したんだと思うんです。仕事が出来なくなった状態の時に、社員を一度解雇するんですが、「必ず元に戻して復活するから」ということを約束してるんですね。もし水谷社長が違う仕事に転じた場合、「その社員達が不安がる」「自分がそれでもまだ、この戦いをやってるんだということを、何かアピールしたい」と。だから『西宮冷蔵』っていう会社を潰したくないっていうのが、一番あったと思います。

――なるほど、社員達のために…! で、今『西宮冷蔵』はどういう状態なんですか? このドキュメンタリー映画の撮影が終わってから、また時間が経ってますが。

柴田: 現在、社員が8名おりまして、長男・甲太郎さんと社長を合わせて10名で、頑張っておられます。甲太郎君が陣頭指揮を取ってるような形なんですが、非常に若い会社なんで元気がありますね。ただ実際のところ、経営状態は、告発以前の約6~7割まで戻ったところで、ようやく社員の給料が払えるようになったという、会社としてはまだまだ厳しい状態が続いてると思います。

■本当の敵は、雪印ではなく…

――今年に入ってからも、不二家に始まって、赤福、比内鶏の問題まで、食品の安全性を揺るがすような事件は、後を絶たないですよね。

柴田: はい。水谷社長もよくおっしゃってるんですけど、告発がきっかけとなって発覚してしまう(ケースが多い)。企業・会社が自らそれを正す形とは、異なっていると。いろんな問題が発覚してますけど、やはり何も変わってないのではないかなと思います。

――この映画、関西方面ではもう何度か上映されてるそうですが、観客の反応はいかがですか?

柴田: 地元ということもあって、反応は確かに良いです。「元気をもらった」という言葉が、非常に多いですね。ただ、映画の中で水谷社長が「これは“闘い”」と何度もおっしゃっている反面、「“敵”が映っていないじゃないか」っていう指摘はあります。

水谷社長は、誰と“闘って”きたのか? 映画の中で、巨大な雪印のマークの看板を映しているシーンがあるが、柴田監督はその画面に、「このマークの“誇り”を受け継いで守ろうとした闘いも、もう一方ではあった」という字幕を付けている。ということは……

柴田: 僕の視点の問題でもあるんでしょうけど、雪印が敵ではなかったんじゃないかっていう気がしてます。たしかに、雪印をああいう方向に持っていったのは、水谷社長の告発だったのかもしれない。ですけど、『西宮冷蔵』自身を潰すきっかけになったのは、雪印ではないと思うんです。実は《見えない敵》がいるという感じがしてて。陸橋にいる頃から「復活」「闘い」と言ってる社長が、誰と闘ってるんだろうっていうのが、僕の中でもずっと疑問だったんです。

■経営としての闘い、父親の闘い

――関西での上映のときと違って、今回は事件の舞台から遠く離れた場所だけに、より人々の記憶が薄らいでいると思うんですが、東京の観客にはどういう事を受け取って欲しいですか?

柴田: やはり《終わってない》ということですね。経営としての闘い、会社としての闘いっていうのは、まだまだ続いてるんです。
それと、《父親の姿》として見てもらえればと思ってます。この点はあまり上手く作品としては出来てないと思うんですけど、今こういう世の中で、いろいろ問題があったり、元気の無いお父さん方に、父親が闘っている姿ってのを見ていただきたいなという気がします。 

――舞台挨拶されるんですか?

柴田: 初日の今日は、私と、水谷社長の息子さん(この映画の副主人公)甲太郎君も舞台挨拶に来ますので、今の甲太郎君をぜひ見てあげて欲しいなと思います。

今年の『山形国際ドキュメンタリー映画祭』では、この映画は「選外」となった。映画作品としては、もっと構成に工夫の余地があったのではないか、と私も率直に思う。「いい作品だから観てくれ」ではなく、「いい主人公だから観てくれ」とお奨めしたい。スクリーンに現れてくる主人公『西宮冷蔵』水谷洋一社長の生き方を、ストレートに見て、知って欲しい。

ドキュメンタリー映画『ハダカの城』は、今日から東京の『ポレポレ東中野』で、11月9日まで、毎朝10:40~の1日1回、上映される。